オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「すみません。驚かせるつもりはなかったんですけど」
「いや、大丈夫。……それより、どうかした? ああ、もしかして加賀谷さん待ち?」

納得したような顔で聞かれ、言葉に詰まる。

言いだしにくさはたしかにある。私は、素直に自分の気持ちを言葉にするのが苦手な性格だし。

でも、だからってずっともじもじしているわけにも、松浦さんが気にしていなそうなのをいいことに、このままなぁなぁにするわけにもいかない。

バッグのなかから缶コーヒーを取り出し、松浦さんに差し出す。
三十分前に買ったときには熱いくらいだったそれは、もうぬるくなってしまっていた。

「コーヒー?」と不思議そうにしている松浦さんを見上げて口を開く。

「昨日、ひどい態度をとってしまったので……それを謝りたくて待ってました」

「え……」
「感情的になって、あんな態度をとってしまってすみませんでした」

謝って頭を下げる、という私の行為がよほど意表をついてしまったのか。

松浦さんはポカンとした顔で数秒間止まり、それから、苦笑いをこぼした。

クッと、堪えていた笑みが我慢できず出てしまったような、そんな笑い方をする松浦さんが私と目を合わせる。

「やっぱり、友里ちゃんは真面目だね。あれくらいのことで、こんな真正面から謝ってくるなんて思わなかった」
「……別に、あのままにしておくと自分が気持ち悪いだけです」

「そんなこと言っちゃって」と、からかうように笑う松浦さんに、眉を寄せた。

謝らなくちゃとは思ったけれど、このひとのこういう部分は心底腹立たしい。