オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



まだかな。それとも、もう帰っちゃったのかな。

そんな風に考えながら誰かを待つなんて、初めてかもしれない。

学生時代も社会人になってからも、好きなひとを待ち伏せして、偶然を装って一緒に帰ろう、なんていう可愛い思考回路は持っていないからしたことがない。

それでも、加賀谷さんとちょうど帰りが一緒になったときには、夕ご飯を一緒にって誘ってみようかな、とか考えたことはあるけれど、結局声にはならなくて、駅で『お疲れ様でした』と笑顔を向けるのが精いっぱいだった。

別れたあと、電車に揺られながら、どうして私は可愛くご飯に誘うこともできないんだろうと、ひとり反省会を開いたのは言うまでもない。

そんな私が待ち伏せまでして会いたい相手が松浦さんなんだから……本当に、人生なにが起こるかわからない。

少なくとも、社員旅行でイルカの水槽前で話していたときには、こんな未来がくるなんてこれっぽっちも思わなかったし、せっかくドキドキしながら待つなら加賀谷さんを待ちたかった。

……でも。

私の仕事の愚痴を聞いて、しっかりとアドバイスまでくれた松浦さんに、きちんと謝りたかった。

それに、それ以外でも松浦さんが言っていたことは間違ってはいない。