「でも、麻田くんが働きながら夕ご飯作り続けられるならって話だし、負担が大きいかも……」
「そんなの、まったくもって大丈夫です! 彼女に悲しい顔させることと比べたら、仕事終わったあとの料理なんて、なんの負担でもありませんっ」
「……あ、そう……?」
ギラギラした直射日光を至近距離から浴びているような感覚に、思わず手をかざしたくなる。
あっという間に元気を取り戻した麻田くんに、工藤さんもやや迷惑そうに眉間のあたりを曇らせていた。
〝少し落ち込ませておいたほうが静かでよかったのに〟と言いたそうな視線を向けられる。
〝私だって、ここまで即効性のあるアドバイスだなんて思いもしなかったんだから仕方ないじゃないですか……〟と目で訴えていると、箸を持ったままの状態の手を、ガシッと握られる。
びっくりして見ると、中腰になった麻田くんが両手で私の手を握っていた。
「信じてもらえないかもですけど、俺、本気で悩んでたんです。でも今ので目の前が開けた気がしました。今日の帰りに、本買って料理勉強します。篠原さん、本当にありがとうございました!」
混じりっけのない、純度100%の笑顔がキラキラ眩しい。
これでもかとばかりに伝わってくる感謝は多すぎるほどで、なんだか心苦しくて「どういたしまして」という声が、思いのほか小さくなってしまった。



