だからなにも返せずに、ワカメと豆腐のお味噌汁をすすっていると、ずっとテーブルに突っ伏していた麻田くんがゆっくりと上半身を起こす。
まるでゾンビみたいに気味悪いほどスローペースで起き上がった麻田くんの顔には精気がなかった。
心なしかげっそりとしている。
「後輩が〝人生終わった〟って言ってるのに慰めもしてくれない……」
「遅かれ早かれぶつかっていた問題じゃない。急に降ってわいたトラブルじゃないんだから、麻田だって心構えくらいできてたでしょ」
ぱくぱくとご飯を食べながら返した工藤さんに、麻田くんは肩を落とし、ついでに頭も落としてしょぼくれる。
「そりゃあ、彼女の手料理を初めて食べた日からずっと頭にはあった問題っすけど……でも俺は、我慢していこうって決めてたんですよ。
彼女の笑顔のためなら、どんな口に合わないものが出てきても残さず食べてやるって」
「そんな覚悟決めてたのに、予想以上のものが出てきて思わず箸が止まってしまった、と」
工藤さんのさらっとしたトーンに対して、麻田くんは「そうなんすよっ」と、うっとうしいくらいに熱のこもった声で返す。
「あれはちょっと言葉にできないですけど、すごくて……っ。なんだろう、見た目はうまそうなのに、味はどれも……その、アレな感じっていう。味とギャップの二段攻撃って言うんすかね」
こんなに熱くなっているのに、彼女の料理をハッキリと〝まずい〟とは言わない麻田くんに、少し好感が湧く。
そんなに好きなら、その気持ちを伝えれば料理問題なんてどうにか乗り越えられそうな気もするけれど……やっぱり、毎日口に入るものだし、なかなか難しい問題だ。



