オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「はい。部署内外から、過保護すぎるって意見が出るくらいに」

十年前だったら、精神的な病を患っても、たとえその原因が仕事にあっても、社員個人の問題だとされていたらしい。

うちは福利厚生がしっかりとしているから、一応、欠勤の間も半年ほどは給料の半額は支払われ続けていたって話だけど、今、部長や加賀谷さんがしているみたいに自宅訪問をしたり、必要なら病院にさえ付き添うようなことはしていなかった。

「でも今は、〝仕事が原因でうつ病〟なんて聞くと世間は一気に社員側に同情するから、社としては〝これだけのことをしています〟っていう盾を用意しておきたいんだよ。
だから、友里ちゃんとこの仕事量に関しても、〝仕事が多すぎてツラい〟っていう意見と同時に現状の仕事内容を出せば、会社側も無視できないと思う」

にこりと笑顔を向けられ、あ、そうかと納得がいった。

「万が一、第二品管のメンバーが精神的なものを患った場合、そういう事態に陥る前にきちんと仕事内容に対して抗議していたっていう証拠……ですか?」

「そう。明らかに第二品管の仕事じゃないものまで全部回してたっていう事実は、会社側としてはマズいから改善しようと考える可能性が高い」

「なるほど……」
「今の部署の仕事について本気で話がしたいなら、まず会社側の耳をこっちに向ければいい。俺なんか、組合は敵ぐらいに思って、主張したいことがあるときはガンガン、会社側の痛いところついていくし」

ハハッと爽やかに笑う横顔に感心してしまう。

私は、現状に不満を持ちながらも文句を言うくらいしかできなかった。さっきのだって、ただ愚痴としてこぼれただけなのに、松浦さんはこんなにしっかりとした答えをくれて驚きが止まない。

ただすごいなぁ……と思っていると、松浦さんが「まぁ、記録っていってもある程度の量が必要だし、この一年は我慢の年になっちゃうけど」と眉を下げ微笑むから、慌てて口を開く。