オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「じゃあ、結婚したあとも死ぬまで口に合わない料理を〝おいしいね。料理上手だね〟って食べ続けるか、別れるかのどっちかね」

感情の乗らない声で冷たい言葉をかけた工藤さんは、麻田くんが「そんな……っ」と泣きそうな顔をしているのなんて構いもせずに水を飲む。

「大学の頃、アホ可愛いとかで人気があったとか言ってたけど、そういうあざとい態度は、いい大人の男がしたってイタイだけだから。あと、アホなのは社会人としては致命的」

しまいには、工藤さんに抑揚のない声でそう言い放たれてしまった麻田くんは、「俺のチャームポイント全否定……」とショックを受けた様子で天井をあおぐ。

そういう、若干ミュージカルチックな態度が〝あざとい〟と工藤さんに非難されているってことを分かっていないらしい。

工藤さんの言い方はたしかに冷たすぎる気もするけれど、結論からいえばその二択しかないのかもしれない。

麻田くんが彼女を否定したくないなら仕方ない。これ以上のアドバイスはできないな……と思い、ショック状態から抜け出せない麻田くんを放置してご飯を口に運んでいたとき。

「なんの話? 俺も混ぜてよ」

第三者の声が割り込んできた。

その声に視線を移すと、麻田くんの隣の椅子を引く松浦さんの姿があって……驚きから言葉を失う。

テーブルに、私と同じA定食ののったトレーを置いた松浦さんがニコリと微笑みかけてくるから、ハッとして周りの反応を確認する。

工藤さんは、わずかに眉間にシワを寄せ、今まで泣きそうだった麻田くんは、突然の松浦さんの登場にポカンとしていた。