「でも私も得意じゃないし、なにもアドバイスできないよ。彼女は自分で下手だって気付いてるの?」
工藤さんが心底興味なさそうな顔して黙々とオムライスを食べているから、仕方なく聞くと、麻田くんがガバッと頭を上げる。
「それが気付いてないんですよ……。だってニコニコしながら『たくさん食べてね』って言ってたし、それに彼女自身は普通に食べてたし。
途中から俺が味覚おかしいのかなって不安になったくらいですもん。だから俺、食堂のメニュー制覇したんですから」
「ああ、そういえばそんなことしてたけど……メニュー制覇ってそれが原因だったの?」
自分の味覚が正しいかを調べるためだったのか。
工藤さんと〝どうせそのうち、俺ランキング作ってみたんすけど!とか発表してくるよ〟みたいに話してて悪かったなと心のなかで謝っていると、麻田くんが「そうです」と力強くうなずく。
「彼女の料理オンチを疑う前に、まずは己の味覚が正しいのかを調べるべきだって思って、それで……でも俺、ここのメニュー全部うまいと思ったから多分、俺の味覚は正常です……」
「残念そうね」と言った工藤さんに、麻田くんは肩を落とし「だって」と口を尖らせる。
「俺の味覚がおかしい方がハッピーエンドじゃないですか。俺がおかしくてごめんってそれでいいけど、彼女の料理オンチはもう解決のしようがないっていうか……俺、口が裂けてもまずいなんて言えないし……」
「まずいまで言わなくても、ただ味が合わないって伝えてみるとかは? 麻田くんが〝こういう味が好き〟って調味料の割合教えてあげればいいんじゃない?」
料理オンチな人は、調味料の割合を守らないってなにかで見た気がして言うと、麻田くんが「俺、彼女を否定するとかできないっす……」とうなだれる。



