オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



近距離から放たれる笑顔に撃ち抜かれる。

申し訳なさそうに微笑む加賀谷さんの頼みなら、もう、どんな厄介な案件だろうと引き受けたい衝動に駆られながら「はい」となんとか答えると「今度、おわびになにか奢るな」と言い、加賀谷さんが自分のデスクにつく。

私のふたつ左の席に座りパソコンを起動させる横顔をこっそりと堪能してから椅子に座り直すと、向かいの席からの視線に気付く。

顔を上げると工藤さんが冷めた目で見ていて……。

『忙しいくせにそんな仕事引き受けちゃって……』と暗に言ってくる瞳から、すっと目を逸らした。

だって。
大好きなんだから仕方ない。



「俺の彼女、料理が、こう……微妙なんですよ。でもそれ以外はすげーいい子なんです。結婚したいってレベルで。どうすればいいと思います?」

真剣な顔をする麻田くんの前で、きつねうどんがどんどん伸びていくのを眺めながら、A定食のエビフライを口に運ぶ。

私の隣では、同じように無言の工藤さんがオムライスを食べていた。

十三時の食堂は、三割程度席は空いている。
うちの会社は十一時から十五時までのどこかで一時間昼休みをとればいいっていうシステムだから、食堂が爆発的に混むのは正午前後だけだ。

一度、十二時すぎにきたことがあるけれど、八十人は座れるはずの席が満席で、食べる場所を探すのに苦労したから、もうあんなお昼ど真ん中に休憩をとるのはやめようと心に決めて以来、十三時から十四時が私のお昼休みだ。

私と工藤さんの冷めた態度に、ひとり熱い麻田くんは「無視とかありえないんすけど……!」と頭を抱えた。