このクレームをつけてきたひとが、心から疑問に思って追及心からそう言ってきたのか、それともいちいちケチをつけて困らせて満足するタイプなのかはわからないにしても、工程表を要求してきている以上、会社としては、それに応えるのか断るのかはっきりと返事をする必要がある。
……でも。
「じゃあ、もしも本当にその方がいらっしゃった場合、外部に出してもいい部分だけを抜粋して見せる……という感じですか?」
工程表は、すべてが内部機密というわけではないけれど、外部に漏らしてはまずい情報も含まれている。
だから今あるこれをそのまま顧客に見せるわけにはいかない。
クレームを受け付けているのはそれ専用の代表電話だし、クレーム対策室が工程表を修正したものを顧客に見せるということだろうか。
面倒くさそうだな……と考えていると、加賀谷さんは「まぁ、そんなとこなんだけど」と歯切れ悪く話し出す。
「それをうちの部署でやれって話なんだ。クレーム対策室で対応してくれるように頼んだけど、跳ねのけられてさ。最近は当たり前みたいにクレーム対策の書類作成とかうちの部署に回ってきてたけど、それってどう考えてもおかしいだろ。
だから、これを機にどうにか断ろうって考えていたら、その間に多田部長が引き受けたと……まぁ、そういう話」
やれやれと疲れた表情で話す加賀谷さんに「またですか……」と、ひとつ息を落とす。
麻田くんじゃないけれど、自分ではなにもやらないくせに、仕事をふたつ返事で受けてくるのは本当にやめてほしい。
そんなだから、仕事量が飽和状態で、加賀谷さんが大変な思いをすることになっているんだと思うと苛立ちが湧いてくる。
眉をひそめていると、加賀谷さんが気を遣ったような微笑みで「ちなみに篠原は、この作業ができるくらいの余裕はあるか?」と聞いてくるから、うなずいた。



