話しながら、女性社員の声とは違う方向に歩く。
水族館であそこまで大きな声で会話するのはどうだろう……と一瞬考えたけれど、逃げる身からすれば、居場所をいつでも特定できるから助かった。
ゆっくりと歩いているらしい彼女たちから、適当な距離を取りながら館内を見て回っていると、松浦さんが言う。
「楽しいよ。でも、友里ちゃんが今日、俺の部屋に泊まってくれるって言うならもっと楽しいかな」
「……はい? 昨日も泊まりましたけど」
今日の旅行に一緒に向かおうって松浦さんが言うから、事前に準備をして昨日泊まらせてもらった。
泊まりの準備と、今日の旅行の準備。ふたつも準備があって地味に大変だったのに……と思いながら、じっと松浦さんを見た。
「もしかしなくても、私がどこまでいうこと聞くか試してますよね」
この社員旅行にしても、急な泊まりにしても。
松浦さんは私がどこまで要望をのむかを試している節がある。
以前からなんとなく感じていたことを口にすると、松浦さんはバツが悪そうな笑みを浮かべたあとで言う。
「んー……試してるっていうよりは、浮かれてるのかも。いつもは嫌がることを俺のために頑張ってくれてる友里ちゃん見ると、愛されてるんだなーって実感するから」
「……私が言うのもあれですけど。松浦さんの恋愛の仕方も相当捻くれてますよね」
捻くれていると言えばいいのか、こじらせていると言えばいいのか。
「それは自覚してる。ごめん」と、苦笑いを浮かべる松浦さんに、「いいですよ。泊まります」と言ってから続ける。



