オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「私が思うことも考えることも、松浦さんが全部聞いてくれるから。意地張ってひとりで抱えなくても大丈夫になったんです」

私の答えが意外だったのか。
言葉をなくしている松浦さんに続ける。

「加賀谷さんとはきちんと話がついてます。だから、突っかかったりしないでください」

眉を寄せ注意すると、松浦さんは「ごめん。気を付けるよ」と苦笑いをこぼす。

「でも、こんな可愛い恋人を持つと気苦労が絶えないんだってこともわかってよ」
「本当、〝どの口が……〟って感じです」

それでも、今まで特別な席に誰かを座らせたことのない松浦さんにとっては色々不安もあるんだろう、と仕方なく許す。

社内では完璧だと噂される松浦さんが、私だけに見せるこどもっぽさは嫌いじゃないし、むしろ大事にしたいと思っている。

きっとそれは、松浦さんがずっと本当は誰かに見せたかったのに、誰にも見せられなかった部分だろうから。

「そういえば、ここクラゲが……」と話しかけたところで、近づいてくる知っている声に気付く。

この、キャッキャした高い声は、ここにバスが到着してすぐに松浦さんの手をとった女性社員グループのものだ。
見つかっても面倒だな……と思い、繋いだままだった手を話すと、松浦さんが不満そうに私を見るから、眉を寄せた。

「わざわざ事を荒立てるようなことする必要はないでしょう」
「それは同感だけど。せっかくこんなデートっぽい場所にいるのに手も握れないなんて、社員旅行もよし悪しだな」

「松浦さんが一緒に参加したいって言ったくせに。せっかくの誕生日プレゼントなんですから楽しんでくれないと困ります」