「おいしい?」
隣の椅子を引いた松浦さんに聞かれうなずいていると、いつの間にか席に戻っていた麻田くんが工藤さんにたい焼きを渡していた。
包んである紙には〝冷たい焼き・抹茶あずき味〟と書かれている。
室外に置かれたテーブルは十台ほどあるのに、席についているのは私たち以外で言えば一組だけだった。
いくら室内のテーブルに空がないからと言って、さすがにこの暑さのなか、外で食事をしようとする人なんていないんだろう。水族館にでも非難したほうがよっぽど涼しい。
自分用に焼きそばを買った麻田くんは、割り箸を割りながら「そういえば」と松浦さんを見た。
「さっきの、なんだったんですか?」
「さっきのって?」
工藤さんが聞くと、麻田くんが焼きそばを食べながら説明する。
「注文待ちで並んでたときに松浦さんと一緒になって、松浦さんも飲み物買うって言うから話しながら待ってたんですけどね。そしたら加賀谷さんが通りかかって」
「へぇ」と呟いた工藤さんの視線が、チラッと松浦さんに向いたのがわかった。
ワッフルを包んでいた紙のパッケージをとる。真ん中をすぎたあたりからキャラメルソースが出現してきて、嬉しいサプライズにひとり喜びながら麻田くんの話に耳を傾ける。
「その時、なんかふたりの様子がおかしかったんですよ。『職場優先する考え方も、伴った行動も尊敬しますけど、そのせいで失ったもんがでかいって今頃気付いても返してやりませんから』とか松浦さんが言ってて。そしたら加賀谷さんが『俺が私情優先してたら松浦の出番も勝ち目もなかったかもな』って」
「へぇ……楽しそう」
わずかに口の端を上げて言う工藤さんに、松浦さんはバツが悪そうな笑みを浮かべていた。
いつも飄々としている松浦さんでも、さすがに工藤さんにかかるとこんな顔をするのか……と眺めていると、麻田くんが続ける。



