『私は味方でいます』

そう、伝えてくれた彼女が。

『松浦さんがそう思うなら、そうなんじゃないですか』

そんな不器用な告白しかできない彼女が、これから俺が過ごす日々に存在しないなんて、考えたくもなかった。

自分が傷つかずに済む、バランスのとりやすい楽な日々よりも、彼女がいる日々を選んだ。
頭ではなく、感情が勝った。

寝室から出て、ソファに置きっぱなしになっていたコートを掴んで玄関に向かう。もどかしい思いで靴を履いている最中にコートを着て、スマホから友里ちゃんの番号を呼び出す。

そして、左耳にスマホをあてたまま玄関を開け、共用通路に出たとき。
呼び出し音が、二重で聞こえた。

スマホを下ろしても呼び出し音は通路に響いたままで……その音の先を追い、すぐ隣に視線を向ける。

俺が開けた玄関ドアに隠れるようにして立っている友里ちゃんは、鳴りっぱなしのスマホをバッグのなかに放り込むと俺を見上げる。

「遅い。……って、怒ってやりたかったのに。二十秒もたたずに追いかけてこられたら、文句も言えないじゃないですか」

言っている意味がわからず、ただ呆けていると、友里ちゃんは一歩踏み出し、俺と向き合うように立った。

まだ朝の七時半で、朝日だって昇ったばかりだ。冬の張りつめた空気は呼吸する度に身体に入り込み容赦なく内側から凍えさせる。

寒さが、これが現実だと伝えてくれる。目の前に……彼女がいる。

共通通路にひとの気配はなく、お互いの息遣いまで聞こえてきそうなほど静かだった。
太陽が俺越しに友里ちゃんを柔らかく照らしていた。

真っ直ぐな瞳に見上げられ……ああ、友里ちゃんだ、と確認すると同時に肩に入っていた力が抜けて行った。