間もなくして、玄関が閉まる音が聞こえ、彼女が本当に俺の部屋から出て行ってしまったことを知った。
あまりのショックで動けないまま、〝俺〟という器に閉じ込められたまま、どうしてこんなことになったのかを考える。
でも、その理由はわからなかった。
だって、昨日の夜、気持ちが伝わるように大事に大事に触れたのに。友里ちゃんも、あんなにやわらかく幸せそうに微笑んでくれたのに、どうして。
ゲームなんか関係なく、ただ純粋に友里ちゃんに惹かれているんだとうっとうしいほどにわかってもらったつもりだった。言葉でも体温でも教えたはずだった。
……なのに。
その、なにひとつ伝わっていなかったと、そういうことか?
「嘘だろ……」
無意識にこぼれた声が、他人の声みたいに耳に届く。
そういえば……と思いだすのは、昨日の彼女の瞳だった。俺をまっすぐに見つめる瞳は、まるで覚悟を決めたみたいに大きな意思を持っていた。
難しい決断をしたあとみたいに、すっきりとした綺麗な顔をしていた。あれは……こういう意味だったのかと、力なく思う。
俺にとってはゲームでしかないと思った上で、俺に抱かれる覚悟をしたと、そういうことだ。
だったらなんで、友里ちゃんは俺に抱かれながらあんなに幸せそうに笑ったんだ。
そう考え……愚問だと自分自身に失笑する。
あの子は、そういう子だ。
好きな男の一挙一動で幸せそうにして、ただの風邪を引いたってだけで可哀想になるくらいに心配する。
本の主人公が同じ名前だったからって、気にしてしまうような、嫌いな俺相手にひどい態度をとったからって翌日待ち伏せてまで謝るような、表情こそそうじゃないだけで、心はとても豊かだ。
声になる言葉は素直じゃないけれど、とても純粋で小さな幸せをしっかり見つけて抱き締めることができる。
つまり友里ちゃんは、ゲームでいいと覚悟して俺に抱かれたんだ。その上で、あんなに嬉しそうに微笑んでいた。
友里ちゃんの覚悟を思うと、心臓がえぐられているみたいにギリギリと痛むと同時に、疑問が浮かぶ。



