その、余裕を浮かべる眼差しを見て、ああそうか……と思う。騙された。

松浦さんは、リビングから漏れる明かりを背中に受けている。
それでも、この至近距離ならお互いの表情は見てとれた。

薄暗い寝室で押し倒されている。
それをようやくしっかりと実感し、現金な心臓がトクトクと高鳴りだす。

「……寝たふり、ですか? どこから?」

声が震える。
緊張と戸惑いでいっぱいいっぱいになりながらも、それを顔には出さないように問うと、松浦さんは「居酒屋から」と答える。

「居酒屋……って、最初からじゃないですか」
「まぁね。俺、アルコールはそこそこ強いし、そもそも、例え家でも潰れるまでなんか飲まないよ」

すっかり騙されていたくせに、その言い分に、その通りだなぁと納得してしまう。

松浦さんが、社員だらけのあの場所で意識を手離すはずがなかったんだ。
いつだって他人を警戒しているような人なのに……うっかりしていた。

「……ここまで運ぶの、重たかったんですけど」

眉を寄せ訴える。
タクシーの運転手さんがいいひとだったから、まだよかったけれど。それでも、自分よりも大きな人を運ぶのは大変だった。

「意識があったなら、もっと控えめにぐったりしてください」

松浦さんは「ごめんね」と、わずかに申し訳なさそうに笑い……それから、じっと私を見つめる。