改札を抜けると、工藤さんは九番ホームに続く階段に向かう。その後ろ姿に「お疲れ様でした」と挨拶して、私も普段使っているホームに向かった。

ざわざわとうるさいほど人の声が混ざる構内。
内容までは聞き取れない会話がたくさん飛び交っていて、思わず顔をしかめたくなるのは毎日のことだ。

学生が完全にいなくなるような時間帯ならまだましだけれど、十九時半の今はまだ制服姿があちこちに見える。

肩がぶつからないようにと、すれ違う人を上手に避けながら歩き、もうすぐでホームに続く階段……というところで、聞こえた声にハッとする。

「ゆりちゃん、待って」

思わず足を止めて振り返る。
けれど、どんなに探しても松浦さんの姿は見当たらなくて、どうして……と考えていると、私から数メートルほど離れた場所にいる男子高生が言う。

男子高生の視線が捉えているのは私ではなく、同じ学校の制服を着た女子高生だった。

「ずっと同じ車両だって気付いてた? ホームからここまで何度も呼んだのに、ゆりちゃん全然気づかないんだもん。悲しかったー」

へらへらと笑う男子高生に、〝ゆりちゃん〟と呼ばれた女子高生は明るい笑顔を浮かべ、ふたりで並んで歩いていく。

そんな姿を呆然と眺め……一気に沈んでしまった気持ちに気づく。

自分が今、なにを期待して落ち込んだのかなんて、考えるまでもなかった。