同じ会社っていう繋がりだけの、よく知りもしない社員にどう噂されてもいいけれど、それで仕事がしづらくなるだとか、そういうことに発展してしまったら面倒だな。

そんなことを考えていると「事実なの?」と聞かれるから、迷ったあとでうなずく。

工藤さんは、面白おかしく噂を広げるようなひとじゃない。

「仲がいいっていうのはアレですけど。まぁ、普通にご飯に行ったりはしてます」

松浦さんは、誰が相手でも私に接するような態度をとる気がするから、私だけが特別仲がいいとは思わない。

それに松浦さんは、人当たりのいい笑顔を作っておきながら、案外心の壁は分厚いように感じるし、その重たそうなドアを私に開いてくれているとも思えない。

だから曖昧な答え方になってしまって、工藤さんはそこを突いてくるかなぁと身構えていたのだけど。聞かれたのは、違うことだった。

「大丈夫? 松浦さんってあれだけ噂のある人だし、篠原とは合わないんじゃない?」

心配してくれているのがわかり、ふっと表情をゆるめる。
これを聞きたくてわざわざ後ろから追いかけてくれたのかな、と思うと嬉しかった。

「大丈夫ですよ。松浦さん、噂みたいに、ただひどい恋愛観持ってるひとってわけでもないですから。恋愛に関してはたしかにどうかと思いますけど……きちんと他人を気遣えるし、一緒に過ごす時間は結構楽しいですし」

話していると、松浦さんと過ごした時間が自然と頭に浮かんでくる。
最初は毛嫌いしていたし、たまに衝突することもあったけれど、一緒に過ごした時間はたしかに楽しいものだった。

それを再確認していると、黙ったままでいる工藤さんに気づき隣を見る。

すると、こちらをじっと、粘着質な眼差しで見る工藤さんがいて……一歩たじろぎそうになった。