「あの時の俺の決断は間違っていたのかもしれないって何度も考えてる。仕事のことを考えれば正しい判断だったはずなのに……時間が経つほど割り切れない想いがでてきた。
俺だって篠原のことは特別可愛いと思ってた。篠原が告白してくる前からずっと」

頭痛がツラいのか、眉を寄せた加賀谷さんが言う。

「責任感を持って仕事に臨む真面目な姿勢も、なんだかんだ言っても後輩を見捨てない優しいところも、好感を持って見てた。それはたぶん、ただの同僚としてじゃない」

告げられた言葉を、ゆっくりと溶ける氷みたいにじわじわと理解する。

重なったままの視線に頬がカッと熱を持つ。きっと、真っ赤になっている私を、加賀谷さんはずっと見つめていた。

つまり……つまりこれは、加賀谷さんも私をってことで――。

加賀谷さんの目が不安そうに歪むのを見て、なにか言わなきゃと慌てて口を開く。

〝あの告白〟はまだ私のなかでは当然有効だし、私はまだ加賀谷さんが……。

――そう、思ったのに。

『行くなよ』

声が出るより先に、松浦さんの言葉がそれを止めた。

自分でも、なんでこんな場面で松浦さんが頭に浮かぶのかがわからなかった。
けれど、さっきの松浦さんの苦しそうに歪んだ顔や、切羽詰まったような声が思い出されたまま消えようとしない。

そのことに戸惑いながら視線を落とし、未だ繋がれたままの加賀谷さんの手に気付く。

この手は、私がこの先触れることなんてないんだと諦めていた手だ。

こうして触れてほしいって思いながらも、それは叶わないことだと、そんなこと望んじゃダメだと……胸の奥に、奥に、閉じ込めていた願いだ。