「頭痛、大丈夫ですか? 一応、この薬なら加賀谷さんが飲んでいる風邪薬と併用しても問題ないって薬剤師さんが言ってたので大丈夫かと。あの、なにか食べられましたか? 一応、ゼリーとスポーツ飲料だけ買ってきたんですけど……」

ビニール袋を差し出しながら言った私を見て、加賀谷さんは、くっと喉の奥で笑う。

かすれた笑い声が痛々しいけれど、いったい、なにに笑ったのかがわからずに呆けていると、まだ笑みを残したままの加賀谷さんが言う。

「……いや。ありがとう。とりあえず上がってから話すか」
「あ……すみません」

心配するあまり、矢継ぎ早に色々言ってしまったことに笑われたのか。

それがわかって恥ずかしくなりながら、お言葉に甘えて部屋に上がらせてもらうことにする。なにかお手伝いすることがあれば、迷惑にならない範囲でそれもしたい。

一度振った相手に世話されて嫌だと感じるラインはどのあたりだろう。
部屋の片づけや洗濯は出過ぎた真似に思える。おかゆを作ったり、ゴミをまとめたりするのだって、プライベートな部分だから不快かもしれない。

でも、そうなると私が協力できることなんてほとんどないな……と考えながら部屋に入ると、漫画雑誌や数枚の服が床に落ちているのが目に入る。

ローテーブルの上には、病院から出された薬が雑に置かれ、その隣には、飲みかけだと思われる水のペットボトルと、テレビとエアコン、ふたつのリモコン。

大きめのワンルームに聞こえるのは、音量の下げられたテレビの音と、加湿器の機械音だけだった。

ベージュ色のフローリングも、黒で統一された家具も記憶のままで、なんとなく嬉しくなる。

「はー……」と小さな声でもらした加賀谷さんがドサッとベッドに腰かけるから、バッグを床に置きながら近づき、膝をつく。