「あやうく騙されるところでした。そういえば、そんなゲームしてましたね」
これは、ゲームだ。松浦さんが仕掛けてきた、悪趣味な恋愛ゲーム。
だから、違う。
ショックを受けたみたいに歪んだ松浦さんの目元も、悲しさを浮かべているように見える瞳も。全部、違う。本当じゃない。
何度も何度も、しつこいくらいに〝これはゲームだ〟と繰り返したのは、そうでもしなければここから動けそうもなかったからだ。
松浦さんがあんな顔したせいだった。
本当に……悪い男だ。
「お詫びの食事、いつがいいか考えておいてくださいね。じゃあ」
早口でそれだけ言い、決心が鈍らないうちに走り出す。
通行人が多い歩道を、人を避けながら薬局に向かって走った。
後ろは一度も振り向かなかった。
……振り向けなかった。



