わざわざ携帯にかけてくるなんて、急用だ。もしかして、会社でトラブルでもあったのだろうか。部長から加賀谷さんに連絡がいって、それで私に――。
可能性が高いものから順に考えていると、『いや、こんなこと頼むの、申し訳ないんだけど』と前置きしたうえで言われる。
『頭痛がひどくて、どうにもならないんだ。本当に悪いんだけど、まだ電車に乗ってなかったら鎮痛剤を買ってきてもらえるか頼もうかと……』
「行きます。全然、大丈夫です。鎮痛剤だけでいいですか?」
加賀谷さんが言い切る前に即答すると、少しの間のあと、電話の向こうからわずかな笑い声が聞こえた。
その声すらも弱々しくて、いても立ってもいられない気持ちになる。
加賀谷さんのアパートは会社から近く、徒歩十分程度の場所にある。以前、第二品管のメンバーで集まったことがあるから、道順も覚えている。
念のため、病院から処方された薬名を聞いてから電話を切り、松浦さんを見上げる。
すぐにぶつかった視線に、ずっと見られていたのかな、と少し驚きながらも口を開いた。
「松浦さん。すみません。加賀谷さんに薬を届けることになったので、食事の約束はまた今度でもいいですか? ドタキャンのお詫びに私が奢りますから、あとで都合のいい日を教えてください」
ついさっき約束したばかりだとは言え、勝手な都合で一方的にキャンセルすることに罪悪感を覚え、謝る。
なにも答えない松浦さんを不思議に思いながらも、早く薬を買って届けないと……とバッグのなかにスマホをしまい、肩にかけ直した。



