「どこか行きたい店ある? 和食だと、駅の向こうに何軒か……」
「初めてご飯を一緒したとき行ったところがいいです。あのお店、料理がとてもおいしかったので……いいですか?」
「もちろん。あの店は俺も気に入ってるし。前は友里ちゃん、キウイサワー飲んでたけど、季節のサワー、新しいのが出てるかもね」
「……よく覚えてますね」
自分が頼んだメニューならまだしも、相手がなにを頼んだかなんてそんなに覚えているものだろうか。
そういう記憶力のよさも、女の子をおとすために役立つんだろうな、と考え……なぜかため息が漏れたとき、バッグのなかでスマホが震えた。
「あ、電話……松浦さん、ちょっと待ってもらっていいですか?」
着信を知らせるバイブレーションだ。
松浦さんと一緒に、歩道の端に寄りスマホを確認して目を疑った。
表示されている名前が加賀谷さんだったから。
一瞬、激しく動転しながらも、スマホから手に伝わってくる震えにハッとして電話に出る。
「はい。篠原です」
『急にごめん。加賀谷だけど……』
「はい。……どうかしましたか?」
携帯の番号は、いつでも連絡がとれるようにメンバー全員知っている。
けれど、こんな風に電話がかかってきたのは初めてだった。
たくさんの人が行きかう、ざわざわとうるさい歩道。
車の走行音もひっきりなしに聞こえてくるから、スマホを当てていないほうの耳を手で覆いながら返事を待つ。



