「なんでも問題にしたがって、小さいことでもいちいち上司に報告してくるって話。ああ、小さいことっていうのは仕事関係じゃなくて、誰の態度が横柄だとかパワハラなんじゃないかとか。でも実際はそうでもないらしいから……まぁ、〝構ってちゃん〟なんだろうな」
「そうなんですね」
「実際、今日のだって本人の不注意だし。会社としては労災が起きた以上、一応緊急会議を開くことになってるからそうしたけど、改善策はもうとっくにとられているし、とりあえずは現状維持だって、部長が話してたよ」
労災の話をしながら、会社の敷地内から出て大通りを歩く。
どんよりした空を見上げながら、明日は加賀谷さん出社できるだろうか……と考えていたとき、松浦さんが話しかけてきた。
「今日、加賀谷さん休みらしいね」
タイミングのよさに少し驚きながらもうなずく。
「よく知ってますね」
「食堂行ったとき、麻田くん……だっけ? 彼が話してるのが聞こえたから。加賀谷さんは有給で?」
「いえ。風邪です。電話を受けたんですけど、声がかすれていてツラそうでした」
昼間よりも夕方から夜にかけてのほうが、症状は悪化する。
今頃ツラいんだろうなぁと考えながらひとつため息をついていると、そんな私に気付いてか、松浦さんが困ったような笑みをこぼした。



