『気を遣ってくれてありがとな。とりあえずは足りてるから、篠原の気持ちだけもらっておく』
気を遣ってくれたのは、加賀谷さんのほうだ。
〝ただの同僚〟の枠を飛び出した発言をした私に、こんなやわらかい断り方をしてくれるのだから。
「わかりました。お大事にしてください」
『ありがとな』という言葉を最後に切られた電話。
もう、回線はとっくに遮断されているっていうのに、なかなか受話器を置くことができなかった。
外に出ると、ビュッと強い風が頬にぶつかってくるから、思わず目をつぶった。
ただでさえ寒いのに今日のこの強風じゃ拷問に近い。
マフラーを鼻まで持ち上げて歩き出したところで、こちらに近づいてくる人影に気付いて足を止めた。
「お疲れ様。友里ちゃん」
「お疲れ様です」
待ち伏せしていた松浦さんと挨拶を交わし、歩き出す。もう、並んで歩くことに違和感や抵抗を感じないのだから、慣れってすごい。
夜空には暑い雲がかかり、星の光を遮っていた。
雪にでもならないといいなと思う。
積もったりした日には、社員が会社敷地内外の雪かきをしなければならないのだけれど、あの作業はかなり過酷で、去年初体験した翌日には腰がバキバキだった。
麻田くんがしきりに『なんで重機いれないんすかぁ……』とスコップ片手に嘆いていたのが懐かしい。
ちなみに、その翌日、待望の重機が入ったけれど、その頃には大半の雪は片付いていて、今さら感がすごかった。
「今日、労災ありましたね」
「まぁ、当たり屋みたいな労災だったけどね」
やっぱり誰から見てもそういう印象か、と思っていると、「元々変わったヤツらしいから」と松浦さんが続ける。



