オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



『一応、今日なにもトラブルがなかったかの確認だけしておきたくて。変わったことなかったか?』

ところどころ、かすれすぎて聞き取りにくい声が痛々しかった。
加賀谷さんはひとり暮らしだけど、きちんと食べたりできているのかな……と心配しながら答える。

「第二品管内では特に……現場で、軽い労災があったのでその関係でバタバタはしてましたけど」
『労災?』

驚いた声を出す加賀谷さんに、事の次第を説明する。
他の社員と同じように〝あいつ、なにやってんだ〟って感じのリアクションなのに、そこに温かさを感じるのは加賀谷さんの人柄なんだろう。

「会議は終わっているのに、部長はまだ離席中で書類も止まっちゃってるので、メンバーは今日は早帰りになると思います。部長を待ってても埒があかないので」

『それがいいな。悪かった、仕事の邪魔して』
「いえ! 全然……あの、加賀谷さん」

言おうか。言うまいか。
二択を乗せたシーソーが頭のなかでグラグラ揺れる。

だって言ったところで迷惑にしかならないし……とは思ったけれど、続く言葉を口にした。

「なにか必要なものとかありませんか? もし、困っていることがあったらお手伝いしに行きま、す……けど」

緊張のあまり、最後おかしな発音になった。
振った相手にこんな申し出されたら、うっとうしがられるに決まってる。そんなの百も承知だ。

それでも、加賀谷さんがひとりで困っているよりはいいと思って言った私に、加賀谷さんは優しい口調で答えた。