オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「そう。今思えば、ハウスキーパーに読んでもらえばよかったんだろうけど、なんか……あの頃の俺は、先生がくれる言葉のひとつひとつが宝物みたいに思えてたから、辞書引いてるときもずっとワクワクしっぱなしだった」

「……お父さんは、通知表見てたんですよね?」

「見てないよ。ハウスキーパーが適当にコメント書いて印鑑押してたから。嫌われたり虐待されてたわけではないけど、俺に興味がなかったんだろ。
親戚から聞いた話だと、母親とは結構ドロドロして別れたみたいだから、母親の置き土産みたいな俺とはあまり顔を合わせていたくなかったのかもしれない」

「……そうなんですか」

お父さんが自分に興味がないと、松浦さんがいつ知ったのかはわからない。けれど、そんなことを思いながら一緒に暮らすのは、とても苦しかっただろうなと思う。

周りの子みんなが当たり前に注がれている親からの愛情を、松浦さんはもらえなかったのだから。

先生からの愛情が松浦さんにとってはすべてだったなんて……と唇をかみしめた。

ひとり暮らしができている今はまだしも、家にしか居場所がない学生時代、きっと、静かに傷ついてきたのだろうというのが簡単に想像できて、喉の奥がグッと苦しくなる。

いつか、松浦さんが会社から出てきたときにひとりで浮かべていた、疲れ切った横顔が頭をよぎった。

周りには見せないあんな顔を、ひとりのときにはしているのだろうか。

こんなに愛想のいいひとが、ひとりで……。

「○とか×だった通知表が、中学高校になって数字に変わったけど、授業態度とか試験でいい点をとれば5がもらえた。俺にとっては、通知表で5が並んでいるのを見るのが最大の自己満足だったんだ。
わかりやすく、認められてる、褒められてるって思えるから。そこに存在意義を感じていたのかもしれない。○とか5が並んでないと不安でたまらなくなってた」