オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき



「うち、俺が一歳だか二歳の頃からずっと父子家庭なんだよ。父親は一流企業の重役で、金銭的には裕福だったし不自由なく育った。父親はあまり家にいなかったけど、家事とかはハウスキーパーがやってくれてたし。
でも……子どもだったし、やっぱりどこか寂しさみたいなものはあったのかもしれないって今は思う」

〝父子家庭〟という単語に、少し戸惑いながらも黙って聞く。

テレビは、いつの間にか情報バラエティーが終わり、五分程度の〝猫旅〟という番組が始まっていた。

猫の目線で風景を映すカメラワークは、まるで視聴しているこちらまで猫になったような気分になれる。穏やかなBGMが流れていた。

「父親は仕事第一で俺のことはどうでもよさそうだったし、ハウスキーパーはあくまでも仕事としてしか俺と接しなかった。たぶん、あの頃の俺はそれが寂しくて、だから小学校に上がって、担任の先生が頭撫でて褒めてくれたときに……こう……ね」

「嬉しかったんですね」

なにも恥ずかしいことじゃないのに、松浦さんは言いにくそうに苦笑いで誤魔化そうとしているから代わりに言う。

すると松浦さんは「まぁ……そうかな」と、一応は認め、それから目を伏せた。

「小学校一年生ってさ、学校に慣れさせるためか、なにしても褒められるんだよ。漢字が上手に書けたとか、掃除を率先してやったとか、給食を残さず食べられたとか。
いちいち言葉でも褒められるし、学期末に配られる通知表にも書かれてて、それを見るのが楽しみだった」

パッと視線を上げた松浦さんが私と目を合わせ、目を細める。

「あれって、保護者向けのコメントだから、普通に漢字で書かれてるんだけどさ、俺、なにが書かれているのかすげー知りたかったから漢字辞典でひとつひとつ調べたんだ」

「え……字画でってことですか?」

それは、結構大変な作業じゃないだろうか。しかも一年生でなんて……と驚いていると、松浦さんが自嘲するみたいに笑った。