「そういえば、前、アドバイスしてもらった記録の件、部署全体でとりかかってます」

パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら話すと、松浦さんは「それならよかった」と微笑む。

「ちなみに、報告書ができたら、どこに出すのがいいと思いますか?」

手を止めて聞くと、松浦さんは「そうだなぁ……」と呟いてから答える。

「コンプライアンス窓口は? 総務とかもなしではないけど、部署間はどこも案外ギスギスしてるから、直接業務に関係していないところが無難な気がする。
コンプライアンスなら、俺たちとは抱えている仕事がまったく違うし、まぁ付き合いとかで若干の私情はあるだろうけど、基本的には中立な立場で守秘義務的にもしっかりしてるから、他部署への不満を訴えたところで変な角も立たない」

「よかった。この間、加賀谷さんたちとその話をしてたんですけど、同じ意見でした」

ホッとして胸を撫で下ろしていると、松浦さんはなにかにピクリと反応してから「そうなんだ」と笑顔を浮かべた。

どうしたんだろう。
いつも焦ったりしないひとだから、わずかな不審さが目につく。

私が加賀谷さんの名前を口にしたからだろうか。でも、だとしてもなんでだろう。

不思議に思いながら見ていると、テレビに視線を移した松浦さんは「友里ちゃんのところはセクハラとか大丈夫?」と聞く。

急な話題転換にどうしたのかとテレビを見れば、そこには情報バラエティーが映し出されており、右上にあるテロップには『私がされたセクハラパワハラ』と書かれていた。

「おかげさまで。松浦さんは訴えられたりしたことないんですか?」
「……おかげさまで」

苦笑いで答えた松浦さんに、まぁそうだろうなぁと内心納得しながら食事を進める。