いつだったか『〝一番じゃなきゃ〟っていう強迫観念も、松浦さんのなかにあったりしますか?』と聞いたことがあった。

あのとき、松浦さんの顔はたしかに強張って固まった。

あまり触れてほしくないことなんだとわかったから、それ以上掘り下げなかったけれど……もしかしなくても、松浦さんのなかには、あんな恋愛を繰り返す理由があるんだ。たぶん。

「もうできるから」と言う松浦さんにうなずきながら、部屋を見渡す。

必要最低限のものしか置かれていない部屋は、たしかに綺麗で整理整頓が行き届いている。
でも、どこか寂しさみたいなものを感じた。

温度がない……とでもいうんだろうか。まるで、誰かの目を気にしたような、モデルルームみたいだった。

寝室は別にあるんだっけ、と考えているうちに、松浦さんが色々と運んできてくれるから、手伝うために立ち上がる。

「あの、もし松浦さんが嫌じゃなければお手伝いしたいんですが……」

キッチンに他人が入ることを嫌がるひとも結構いる。だから、表情をうかがいながら声をかけてみると、松浦さんは「じゃあ、お願いしようかな」と笑顔で答えてくれた。

「シンクの一番右側の引き出しに、フォークがあるから、二本持ってきてもらえる?」
「はい」

「あと、シンクの上にある料理ももうできてるから適当に」
「わかりました」

ステップフロアに続く、二段の階段を上ると、リビングからは見えなかったシンクが目に入った。

今の今まで調理に使っていたはずのそこには、出来上がった料理が残っているだけで、フライパンやザルなどはすでに洗い終わって水切りに置かれている。

料理ができるひとは、調理しながら洗い物や後片付けも済ませてしまうとは聞くけれど……これがそうか、と感心しながら、フォークやサラダなどを運んだ。