「でも、その主人公、そんなに俺に似てた?」

改札を抜けながら聞くと、友里ちゃんは定期を鞄にしまいながらうなずく。

「はい。たぶん、過去に松浦さんが遊んで捨てた女性が恨みのつもりで書いたんじゃないですか?」
「……否定できないな」

痛いところをつかれ、苦笑いをこぼしながらホームに続く階段に向かう。

一緒に帰るときには、友里ちゃんが使っている駅まで一緒に行くのがお決まりとなっていた。

俺のマンションは彼女が下りる駅よりも、ふたつ手前だけれど、ふた駅戻るくらいならなんの手間でもない。

混み合っている構内、友里ちゃんを先に上らせて、俺はそのうしろに続く。

ローヒールでカツカツと音を響かせながら上る後ろ姿を眺めながら、昨日のことを話してみようかと考える。

加賀谷さんが飲み会に参加して、しかも満更でもない様子だったと話したら、きっと友里ちゃんは傷つくんだろう。

〝加賀谷さんの自由だし自分に口出しする権利なんてない〟と弁えているから決して表には出さない。
それでも、そっと心のなかでは傷つきひとり泣くのかもしれない。

そう思ったら……告げようとしていた言葉が、強力な磁力にでも引っ張られているみたいに喉の奥に引っ込んで行った。

友里ちゃんが傷つけば付け入るすきができて、俺からすれば願ったり叶ったりなのに。どうしてだか、そんな気分にはなれなかった。

この子の悲しむ顔は見たくない。

いつか、自分だって悲しませるつもりで声をかけたというのに……本当に、近づき方を間違えた。

真っ直ぐに伸びた綺麗な後ろ姿をぼんやりと眺めていると、不意に友里ちゃんが顔半分だけ振り向き話しかけてくる。