本の内容をすべて理解したわけじゃないし、タイピングだって相変わらず遅い。それでも、このソフトはこんなことができるってことが分かっただけで、仕事はやりやすくなった。
何処を調べればいいのかがわかるようになった、と言えばいいのか。


「うん。もしかして家に帰ってから頑張った? 今日はずいぶん質問も少ないし」


遠山さんにそう言われ、「まだまだですけど」と答えつつも嬉しかった。

今日は瀬川さんと阿賀野さんが外出中で、社内にはあさぎくんと女性陣が三人。美麗さんは調べ物があるのか、出たり入ったりを繰り返していた。


「ちょっとトイレ行ってくるね」

と、遠山さんが席を外し、一瞬あさぎくんとふたりだけになる。


「仲道さん」

「は、はいっ」


そのタイミングで呼ばれて、私の心臓は飛び出しそうになる。
すぐさまあさぎくんのデスクの傍まで行くと、彼は苦笑したまま足もとから紙袋を取り出した。


「ごめん、驚かせた? 昨日言ってたパソコン。あんまりひいきしているみたいに思われても困るから、誰もいないタイミングで渡したくて」


差し出されたのはA4サイズの小さめのノートパソコンだ。ケーブル類もすべてまとめて入っている。