「萌、起きたのか?」
「ずっと起きてたもんー。いやだぁ、彼女はできてもいいけどまだ結婚しないでぇー」
「狸寝入りかよ」
「私だっていたたまれないんだよ、いろいろ」
わんわん泣き続ける萌黄のせいで、店の中は騒然とし、店にいたお客はそそくさと帰っていった。
母は「すみませんねぇ」って言いながら愛想を振りまき、幸太も「萌ちゃん、ブラコンだもんな」としょうもない慰めを言いつつ「また今度、詳しい話聞かせて」と帰っていった。
母が片づけをしている間、俺は食事をとりつつ萌と話す。
「……幸太は鈍感だな」
「ホントだよ。あーあ。私、全然女の子って思われてない」
「それは仕方なくないか?」
九歳差をものともしない、萌のほうがすごいと思う。
「彼氏なんてほんとにできてたのか?」
「ホントにいたよ。でも怒らせちゃった。どうしても幸太くんと比べちゃって」
「高校生男子を大人と比べちゃ可哀そうだろ」
たしかに相手に同情する案件だ。萌と顔を合わせるのも久しぶりなので、ついでに言いにくいことも言っておこう。
「幸太のことは諦めたほうがいいと思うよ。あいつが選ぶ子ならたぶん間違いないし。適当な付き合いする奴じゃないから」
淡々と言うと、萌は唇を尖らせた。
「お兄ちゃんはそういうとこ冷たいよね。まあでも、適当な慰めも言わないから信用はしてるけどさ」
「そう?」



