「それより、浅黄は仕事どうだ? 萌ちゃん経由で主任になった話は聞いたけど」

「ああ。それは……まあ、大変だけどそれなりにやってるよ。それより……」

ちらりと萌黄を見て、完全に寝ているのを確認する。

「実は彼女ができたんだ」

「マジ? え? 俺、お前のコイバナ聞くの初めてじゃね?」

ノリノリで前のめりになる幸太。

「え、どんな子、どんな子」

「かわいいよ。なんて言うのかな。正義感あって一生懸命だけどちょっと空回りっていうか。この子は嘘とかつかないんだろうなっていうタイプ」

「へぇ……」

ニヤニヤしている幸太に、俺がいるのに気づいた母が寄ってきた。

「浅黄、いつの間に来てたの。……あら、萌、寝ちゃったのね?」

「おばさん、聞いた? 浅黄彼女ができたって」

「百花ちゃんでしょ? やっぱり付き合ってるでいいのよね? よかったわぁ。こんなにいい男に産んでやったのに、全然女っけなかったんだもの」

母さんも楽しそうに応じている。

「それで、ちょっと父さんに相談があって来たんだよ」

「お父さん? でももうちょっとしないと手が空かないわね。相談ってなんだったの?」

「彼女の家に挨拶に行こうと思って……」

ポロリと言ったら、空気が止まった。

「マジ? もう結婚? 俺より後に彼女できたのにそこ追い抜いていく気?」

幸太がわなわなと震え、母も「えっ、もうそこまで話は進んでるの?」と困惑気味だ。
しまった、言い方を間違えてしまった。

「違う……」

「う、うわああああん」

突然、眠っていたはずの萌が叫びだした。
見ると体を奮わせて泣いているではないか。