翌日、会社帰りに【宴】に寄った。モモの実家に挨拶に行くことを、両親にも報告しておこうと思ったのだ。
時間はもう二十一時を回っているから、店もそこまでは混んでないだろうと思ったけれど、入ってすぐに懐かしい顔に出会って驚いた。

「おお! 浅黄じゃん、久しぶり」

「あれ、幸太」

幸太とは、小学校から高校まで同じ学校だった。
金髪のせいですっかりオドオドしていた俺に、いつも話しかけてくれた唯一の親友だ。
学校が離れてからはたまにメールでやり取りするくらいで、働きだしてから会うのは、本当に久しぶりだ。

「萌ちゃんに呼び出されてたー。彼氏に振られたんだって」

幸太は相変わらずの人の好さそうな笑みを浮かべる。子供のころからあったそばかすは、頬にうっすらと残っている。
その萌はと言えば、四人掛けのテーブルの幸太の向かいに座って、テーブルに突っ伏して寝ている。
俺は萌を起こさないようにそっと隣に座った。

「萌に彼氏なんていたんだ」

萌は昔から幸太のことが好きでこじらせていたから、彼氏なんていないと思っていた。

「告られて付き合ったのに振られたーって怒ってたよ。まあ、話を聞いてると、振った男の子のほうに同情する感じだったけど」

「それにしても、呼ばれたからって素直に来なくてもいいんだぞ? 彼女怒らないの?」

「怒らないよ、別に。萌ちゃんは妹みたいなもんだし」

幸太は萌の好意に気づいていたんだろうか。こうして呼び出しに素直に応じて出てくるところを見ると、気づいていなかったのかもしれないな。