しんみりしたのと同時に、後ろからは阿賀野の笑い声がする。

「聞いてたぞー。お前、あの人も投げ飛ばしたのかよ。さすがゴリラ」

以前投げ飛ばされたこともある阿賀野は、むしろ面白がっている。宮村さんと比べれば、こいつは調子のいいところはあれど、後腐れなくていい奴だ。

「もうっ、聞き耳立てないでくださいよっ」

顔を真っ赤にして阿賀野に向かっていくモモ。阿賀野はその拳を柔らかく受け止めて俺にウィンクをした。

「まあでも、よかったじゃん。今回は馬場に守ってもらえて」

「だって、主任は王子様ですもん」

「そしてお前は野獣な。美女と野獣ならぬ王子様と野獣」

「もうーっ。うるさいし、阿賀野さん」

ふたり仲良くじゃれているのを眺めながら、俺は心の中で彼女の背中に語り掛けた。

それにはちょっと異論がある。
たしかに俺たちは王子様と野獣だと思うけど。
王子様なのは、曲がったことが大嫌いで、誰のことも見捨てない、正義感あふれる君の事だよ。
君は、王子様のような格好いいお姫様なんだ。
そんな君を、自分のものにしたくて俺だけ見るように閉じ込めたがっている野獣が俺。
君に触れたあの日から、俺の欲望は枯れることはなくて、それまで抑えていた分も君を求める気持ちが止まらない。


「仲道さん、ちょっと」

「はい?」

手招きして彼女を呼びつける。そして、阿賀野から見えない位置まで連れてきてそっと耳打ちした。

「……帰り、一緒に帰ろうか。今日の嫌なこと、みんな忘れさせてあげる」

「へっ、あっ、……え」

ほら、真っ赤になってかわいい。
こんな彼女、誰にも見せたくない。
小さい頃は母に、学生時代は幸太に、そして今はモモに。
執着心と依存心の強さは健在で自分でも呆れるけど、やっぱり思う。

俺はもう、彼女を手放せないだろう。