宮村部長はわなわなと拳を震わせ、「失礼する!」と背中を向けて出ていった。
謝金の受け渡しなどまだ事務作業が終わっていないから、こじれると面倒だけど仕方ない。事務担当を通じてなんとか処理だけは済ませよう。

今後の段取りを脳内で考えていると、モモが眉を下げたまま、俺の服の袖を引っ張った。

「よ、よかったんですか?」

「うん、いいよ。あのいい方は脅しに近い。……前の会社を辞めた訳を聞いておけばよかったね。ごめん、無神経にあの人を呼んじゃって」

「いいんです。主任のせいじゃないし。……それに、投げ飛ばしたっていうのは本当なので」

「でも理由があるんでしょ? どうして?」

なるべく平坦な口調で声を掛けたら、彼女は安心したように顔をほころばせ、理由を口にした。

「会社の……事務の先輩がセクハラされていたんです。先輩は黙って耐えていたんですけど、私、我慢ならなくなってしまって」

「自分がされたわけじゃないんだ。先輩の代わりに?」

「はい。それで、揃ってクビになりました。みやむら工芸店は家族経営で、……部長は社長の息子さんなんです」

「なるほどね」

彼女のつむじのあたりをポンポンと撫でる。

「辛かったね」

そうしたら、彼女はうつむいて、少しばかり涙ぐんだ声で「……ありがとうございます」とポソリとつぶやいた。