「ぶ、部長?」

「……仲道?」

俺の隣に立つ宮村部長も、彼女に向かって険しい顔をする。

「あれ? 知り合い? いつもお世話になってますー。田中不動産の阿賀野と言います」

空気を読まずにすかさず名刺交換を始める阿賀野に、我に返ったように宮村部長が応じる。

「あ、ああ。みやむら工芸店の宮村と言います」

「お、お久しぶりです」

ぎこちなく頭を下げるモモ。宮村部長はモモには渋い表情を向けたまま「どうして君がここに?」と問いかける。

「今、うちで働いてもらっているんですよ。実は宮村さんのところを教えてくれたのも彼女で」

「へぇ……そうなんですか」

宮村さんは俺ににっこり笑って見せると、なんとなく馬鹿にしたようにモモをみつめ、「久しぶりだね。……ちょっといいかな」と彼女を連れ出そうとした。

気になって止めようとしたタイミングで阿賀野に話しかけられ、俺は仕方なく彼女と彼を見送った。

「工芸店の人? 何してたんだ、馬場」

「ああ、会場の整備について意見を聞いていたんだ。……彼女の前の職場らしくて。詳しい人に聞きたいと思って頼んだんだけど」

「へぇ? 前の職場の上司? の割になんかずいぶんあいつビビってない?」

「……そうだな」

「まあ、百花ならなんかあっても投げ飛ばして終わりだろうけどな」

さらりと言った阿賀野の言葉で、引っかかっていたことがつながった。

前の職場のことを聞いたとき、すごくぎこちない顔をしたモモ。
企画の話であのくらい前のめりになるくらいだから、彼女は手作りイベントが好きなはずだ。
つまり、その職場は職種としては楽しかったはずだ。
なのにどうして辞めた?
どうして、苦手なPC作業を前面に押し出してまで、派遣に登録したんだ?