その日の夜、あさぎくんが帰ってから、私は実家に電話をかけた。

「千利、いる?」

『いるけど、昨日から機嫌悪いのよ、あの子』

電話口のお母さんは不審声だ。

『モモのところに泊まるって言ってたくせに、いきなり帰ってくるし。ケンカしたの?』

「うん。……まあ」

さすがに彼氏と喧嘩して出ていったとは言いたくない。千利も黙っているようだし。

「あのね、お母さん」

『うん?』

「私、彼氏ができたの。それで、彼が挨拶させてほしいって言ってる。って言っても結婚とかじゃなくて。ただ、お付き合いしてますっていう挨拶なんだけど」

一瞬、沈黙が訪れる。そのあと『ええええええー!!』と驚愕の声。
そこまで驚く? 私、一応二十二歳の年頃の女の子ですけど。

『びっくりしたわぁ。それに、その挨拶いる? ずいぶん真面目な人ねぇ』

「うん。……お母さんも知ってる人だよ。覚えてないかな、お父さんの昔の同僚の馬場さんちの息子さん……あさぎくんっていうの」

『ああ! 浅黄くん、覚えているわ、金髪のかわいい子よね……って、……え? その浅黄くん?』

「今の会社で再会してね。……それで」

『あらあらあら、そうなんだー。……それってお父さんが知ったら面倒くさい案件じゃない?』

私もそう思うよ。ただでさえ子煩悩なのに。
知り合いの息子さんであることがいいほう悪いほうどちらに作用するか想像つかない。