王子様と野獣


「あーもう。邪魔だろうし俺は帰る」


踵を返した瀬川さんに、状況のつかめない私は思わず呼びかけた。


「あ、あの、瀬川さん」

「ごめんね。悪いけど、今は優しいこと言えないから。気にしないで。明日にはいつも通りにできるから」


十分優しいよ。瀬川さんってすごくいい人だ。
どうして私、瀬川さんを好きになれなかったのって思うくらいに。

そのまま走っていく瀬川さんの背中を見送っていたら、ジワリといら立ちが沸き上がってきた。


だって、あさぎくんってば何を考えているの。
金曜の夜、あなた間違いなく私のこと振ったよね?
なのになぜ、今になってそんな思わせぶりなことを言うの?
しかも、瀬川さんの目の前で。


「……あさぎく……じゃなくて馬場主任!」

「ごめん、驚かせて。……瀬川と一緒にいるのに、驚いて」


驚いたって、こういう行動する? あなた別に私の彼氏でもないのに。
あさぎくんの行動が理解できなくて、イライラが止まらない。


「意味わからないです」

「うん。俺も自分の行動がわけわからない」


なんじゃそりゃー。だったら私にわかるわけないじゃない。


「モモちゃんの行動もわからないよ。……こんな時間まで、何していたの? あれから二時間くらいたつよ」

「えっと……それは、その」

「瀬川とずっといたわけじゃないだろ? あいつさっきまで会社にいたし」


そしてなぜ私が詰め寄られているのだ。おかしくない?