「即答だね」

「瀬川さんのことを、そういう視点で見たことがありません」

「じゃあこれから考えるのはどう?」

「今は……無理です。好きな人がいるので」

「馬場でしょ? 振られたのに、諦めないの? 俺だったら慰められるよ?」

「主任は、私にとって王子様なんです。届かなくてもずっと憧れの人で。……最初から届くって思ってないからかもしれない。まだ頑張れる余地があるって思っちゃって。だから、自然に諦めるって思えるまでは頑張りたいんです」

「王子様……ねぇ。ちぇ、キラキラした顔してるからな。俺のほうが絶対将来性あると思うけどな」

「……瀬川さんが嫌いなわけじゃないんです。ただ……」


その続きを、私は言えなかった。


「……ちゃんっ」


名前を呼ばれた気がして振り返った瞬間、背中の方向から男の人に肩を掴まれ抱き寄せられた。
反射的に体が動かなかったのは、その声があさぎくんのものだから。
走って来たのか息を荒くしていて、頭の上でその呼吸音がする。


「……お前ね、社会人としていきなりのその行動はどうなの」


向かい合った瀬川さんは呆れた様子だ。


「それに、仲道さんもこいつだったら投げ飛ばさないんだ?」


顔がカーっと熱くなってくる。言葉に出さなくても、私の態度は正直すぎる。
反射でやってしまう行動は、心の底を正直に映し出してしまう。


「だ、だって。…………嫌じゃないですもん」


その一言だけで、告白しちゃっているようなものだ。ますます顔が熱くなりつつ、瀬川さんに残酷なことを言っているとも思う。

ごめんなさい、ごめんなさい、瀬川さん。
でも私、やっぱりあさぎくんが好きです。他の人なんて、今は考えられそうにない。