表情がくるくる変わり、よく泣いてよく笑った。彼女が笑うと、なぜか自分も自然に笑ってしまう。
うるさいくらいなのに、弟も両親も彼女のことが好きでたまらないという顔をしていて、彼女を中心に家庭が出来上がっているという感じで。
愛される子っていうのはこんな子なんだろうと思った。
キュッと胸がきしんだのは、羨望もあったと思う。
母は俺を愛してくれた。今の父も大事にしてくれている。だけど、俺は?
愛していても幸せにはできない。母さんは俺のせいで苦労したんだし、父だって、いきなり八歳の子供の親にはなりたくなかっただろう。
それが劣等感となっていた俺は、“モモちゃん”と呼ばれたこの素直な女の子が羨ましくて仕方がなかった。
そのせいか、あの日の記憶はおかしな程鮮明に残っている。
きっと名前が似てるだけだろう、と思った。俺が知っている彼女の記憶は、仲道さんちのモモちゃんというだけ。仲道百花というフルネームを知っているわけじゃない。
ただ、もし本当に彼女なら、どんな風に成長したのか興味があった。
『伊佐さんはほかの会社との契約期間がまだあるので、ひと月遅れますが、スキルは確かですよ』
派遣会社の担当者の声に我に返る。
会社としては実績のある人を派遣したそうなそぶりだ。
なにせ、田中不動産は大手だ。ここの信用を無くすことは避けたいのだろう。
『この、仲道さんという方は?』
『彼女は登録したてですので、まだ確かなことは言えませんが、以前の会社ではHP担当をしていたそうで……』
『ではこの方で』
彼女に決めたのはほぼ独断だった。
懐かしさに惹かれたことは否定できない。
小さな彼女が脳裏に浮かんで、ホッとした気分になった。
恋をする予感はないわけじゃなかった。
だけど、どうせ俺は誰とも付き合う気はない。距離を測り間違え無ければ大丈夫だと思っていたから。



