そして月日が流れて、俺は田中本部長と出会い、田中不動産に入社した。
彼のもとで働くのは面白かった。無理難題も言うけれど、サポートして感謝されればやる気も湧いてくる。
そして彼は言ったのだ。


『お前に新しい部署を任せたいと思うんだ。若いメンツしか集められないけど、お前のやりたい、まちづくりができる。思い切ってやってみろ』


それまで、サポートはしても人の上に立つことはしない俺を、無理やり上の立場へと引き上げた彼は、有能だけど癖のある面々をその構成社員として集めた。
その中に同期がふたりもいたことには驚いたが、先輩が多くいるよりマシかと考える。
そうして、土地開発部門はスタートしたのだ。

遠山さんの退職にあたり人員補充するために見せられた派遣会社の人材リストに、うっすら記憶に残っている名前を見つけた。

小さなころに父さんの友人の家で、一緒に遊んだ女の子だ。

弟とぴったりくっついて、表情をころころと変えて。

『ほら、あさぎくん、見て。これ、ガラスの靴だよ?』

シンデレラの物語にはまっていたのか、弟のブロックで一生懸命靴をつくろうとしていた。
出来上がって物は靴というよりは、真ん中に穴の開いた箱という形状だったが、『すごいね』と言うと顔を真っ赤にして喜んだ。