どうしても、思い出す。『君を愛している』と言ってほほ笑んだ、父の姿。
偽善だ。どう言ったって、お前は母さんを捨てた偽善者だ。
そして俺は、そんな偽善者の息子なんだ。
裸の女性を目の前にして、俺はどうしてこんなことばかり考えてしまうんだ。
『……ごめん』
吐き気が止められなかった。
口もとを抑え、うつむいて黙った俺に、彼女はひどく傷ついた顔をしてシーツを引き寄せた。
『……どうして?』
『ごめん』
それしか言えなかった。
ごめん、ごめん、ごめん。君を嫌いなわけじゃない。
だけど、俺は乗り越えられなかった。実の父に対する鬱屈した気持ちを捨てられない。
結局俺は大切な人を傷つけるんだ。
あいつの子供だから、人を幸せにすることができない。
実の父の存在は、俺にとっては呪いのようなものだった。
あの別れの瞬間、俺は完全にその呪いにとらわれてしまった。
その彼女とはその後すぐ別れ、それ以降は、女性と付き合うこと自体を止めた。
結局俺の愛はきっと父親と同じ。ゆがんでいるから。だからきっと誰も幸せになんてできない。
人を不幸にするだけの人間には幸せになる権利なんてない。



