「何―っ……う………」

炎の渦に視界を阻まれ、竜騎士は後ろへと下がる。

(何故、幼龍がそれほど高い魔力を!……ぐぁっ)

驚いている竜騎士の脇腹に、鋭い痛みが走った。

「さっきのお返しだ」

肩を押さえながら、左手で持った槍を、竜騎士の脇腹へと突き刺した。

そのため、竜騎士は地面へと膝をつく。

押さえたところから、血が流れ出るのを感じ、痛みに眉を潜める。

体制を整えるのに時間がかかってしまったアルは、ティアが炎を吐いた時に立ち上がり、槍を突き出し傷を負わせられたが、それでも長くは戦えない。

アルは竜騎士が膝を付いたのを確認して、レインの元へと走り寄る。

「おい、しっかりしろ!」

「………」

レインは、浅い呼吸を繰り返していて、返事を返さない。

「………まずいな」

アルはレインをおぶり、ティアを見る。

「そこの崖から飛び降りるぞ。レインを助けるためだ。分かるだろ?」

これは命令ではなく、レインのために協力しろという意味で言うと、ティアは頷いて崖がある方へと走っていく。

「待て!………っ」

痛みに顔をしかめ、それでもこちらへ向かおうと立ち上がる竜騎士を、アルは冷めた瞳で見る。

「お前は龍達だけでなく、人間も殺そうとするんだな。……こいつがもし死んだら、僕はお前を殺しに行く」

それだけ言って、アルはティアの後を追った。

「……………くそっ!」

苛立ちが沸き上がり、竜騎士は地面を殴る。

山火事になる程の火の勢いは無いが、早くここから去ることにこしたことは無いだろう。

竜騎士は立ち上がると、馬を待たせている山の下まで歩いていった。


一方、レインをおぶって走るアルと、アルの先をとことこと走るティアは、崖へと出る。

『レイン?』

心配そうにこちらを振り返ったティアを、アルは冷静に見返す。

「合図をしたら、飛び降りるぞ」

『ギョイ!』

ティアは崖のギリギリまで近付いて、アルの合図を待っている。

「…………今だ!」

『ピギィ!』

アルとティアは勢いよく崖から飛び降りた。

「ゼイル!!」

アルの声に答えるかのように、雄叫びに似た鳴き声が響き渡り、次の瞬間銀色の龍が、アル達を受け止めた。

『あ、あ、兄貴ー!!無事で良かった―って、何かいるんだけど?!』

どうやら、レインとティアには気付いていなかったらしい。

『あれ?その子何か見覚えが………』

「ゼイル。急いで龍の谷へ飛べ」

首を捻るゼイルを無視し、谷へ向かうよう指示すると、おぶっていたレインをよこたえらせる。

首筋に指を当て、脈を測ると、明らかに鼓動の音が弱まっていた。

「……まずいな。龍の谷までもつかどうか」

取り敢えず、止血だけでもしなければと、レインの背中へと手を伸ばす。

だが―。

「そこを、どいて」