「師匠?」

「ん?……眠れないのかな?」

この家のベットは一つしかない。そのため、レオンとレインは一緒に寝ている。

レインはティアを抱えたまま、自分のお腹をぽんぽんと優しく叩くレオンを見た。

まるで母親のように、寝かしつけようとしてくれている。

ここに来て、まだ三日。それでも、レインはここが気にいった。

レオンも、ちょっと変なところはあるが優しい。

「師匠は、姉さんとお友達だったんでしょう?」

「……うん。友達というか………みたいな……というか」

何やらごにょごにょと言葉を濁していて、良く聞き取れなかったが、それ以上追求はしなかった。

「昔の姉さんを知ってるなら、私のお父さんとお母さんのことも、師匠は知ってる?」

「………うん。良く知ってるよ」

「お父さんとお母さんは、何でいなくなっちゃったの?」

ティアナに聞けなかったことを、レオンへと尋ねる。

レオンなら答えをくれる気がしたからだ。

「……君のお父さんとお母さんのことは、今はまだ言えない。君が大人になったら、教えてあげるよ。後、ティアナのこともね」

レオンは困ったように笑うと、レインの頭を撫でた。

「姉さんも師匠も、皆『大人になったらね』って言うんだね。いつになったら、大人になれるの?」

「うーん、年齢的な意味での大人だったら十八かな。成人として認められるから。でも、年齢じゃなくて、心という意味での大人だと、基準が難しいけど」

何せ、成人をしていても、中身が子供と変わらないような大人もいるのだ。

レオンとしては、レインには、心の意味での大人になってほしいと思う。

「君が、すべてを受け止められるようになったら。大人として僕が認める。そしたら、君の知りたかったことを話すよ。でもまずは三年間、君は生きる術を学ぶ必要がある」

「生きる術」

オウム返しに尋ねると、レオンは頷く。

「僕は僕のすべてをかけて、君にそれを教える。君が一人で立ち上がれるようにね」

訝しげな視線を送るレインに、レオンは穏やかに微笑んだ。

レオンが何故レインを拾い、生きる術を教えたのか、彼は何を思っていたのか。

レオンの言葉一つ一つに込められた意味を、レインが知ることになるのは、三年よりももっと後のことだ。

そして、レインが出会った黒髪の男、龍を連れた少年。この二人が、レインの道を決める鍵になることなど、誰もまだ知らない。

閉ざされた森の中で、レインは生きる術を学び、そして三年後、彼女は一人でティアを育てることになる。

そして、竜の現実に打ちのめされることになるなど、この時はまだ知る筈もなかった。



~卵の章 完~