「とにかく、予約を入れたのは事実なんだから、ほかの客を返してでも通せ。さもなければ慰謝料だ!」
慰謝料?
半ば脅迫になっていく青木さんの口調に、私の気持ちがサーッと冷めていく。
あれほど惹かれたのは、単なる幻?
私は、青木さんのどこを見ていたの?
優しいばかりじゃいやだって、それじゃ、私はこういうことを望んでいたの?
違う。こんなの違う。
強引イコール強さなんかじゃない。
今、ようやく目が覚めた。
「青木さん、ごめんなさい」
いまだ店員と揉めている青木さんにそう告げ、私は店を飛び出した。
謝るべき人が私にはいる。
その足で、高柳さんの働くホテルへと直行した。
「高柳さんはいらっしゃいますか?」
「申し訳ございません。高柳でしたら本日は退勤いたしました。なにかお困りのことがございましたら承りますが」



