このまま沈黙を貫くのは、高柳さんを欺くのと同じ。
そうわかっていながら、ノーと言えない。
どうにもならない絡み合った空気の中、信号が赤から青に変わり、ようやく長い呪縛から解放された。
「帰りに返事を聞かせて。それまでに絶対俺のことを好きになるから」
青木さんはやけに自信満々にハンドルを握った。
青木さんからの思わぬ告白に心拍数が密かに上がる。
そういうことを望んでいた自分が確かにいることに気づかされた。
海で感じたようなドキドキする気持ちをもう一度味わいたかった。
かといって、すぐにイエスとは言えない。
どういう答えなら、私は自分を納得させることができるんだろう。
全くわからないもどかしさが、私の心を埋め尽くした。
高柳さんの運転で連れてこられたのは、繁華街から少し離れたところに隠れ家のように立つフレンチレストランだった。



