◇◇◇◇◇
翌日の夜。
私は交わした約束どおり、青木さんの車に乗り込んだ。
職場まで迎えに来てくれるという、少し嬉しいサプライズも手伝って、高柳さんのことはすっかり頭から飛んでいた。
……というよりは、見えないように深く遠く、奥底へとしまいこんだ。そこから出てこないように、ガッチリと鍵までかけて。
「本当は食事をしてから言おうと思ったんだけど……」
信号待ちを見計らって、青木さんが口を開く。
「美里ちゃん……俺と付き合わない?」
それは、突然過ぎる申し出だった。
有無を言わせない強い視線にたじろぐ。
きっぱり断らなくちゃいけない。
婚約者がいると、はっきり伝えなくちゃ。
そう思うのに、唇は動かない。
今日も外している婚約指輪の跡を指でなぞった。
まるで打ち抜かれたようになにも答えられない。



