中途半端な気持ちで、なにを話したらいいのかさえわからない。
高柳さんがなにも言わないのなら、いっそのこと切ってしまいたい。
重い空気に耐えきれなくなりそうだった。
「美里? ……明日の晩、時間取れる?」
長い沈黙のあと、高柳さんがようやく聞き取れるほどのか細い声を発する。
明日?
……さっき青木さんと約束したばかりだ。
「美里とゆっくり話してなかったから。俺の仕事が忙しいせいで、美里の気持ちを不安定にさせちゃったみたいだし」
ここは、本来なら青木さんとの約束を断るべき。婚約者を優先させなきゃならないことは、頭全体、身体全体でわかっていた。
それなのに……。
「ごめん。明日はちょっと……仕事が」
私は、断るべき相手を取り違えた。
残業なんて滅多にしない私の、苦し過ぎる口実だった。
白々しい嘘なのに、どうして問い詰めないの?
どうして、そんな嘘すら見抜かないの?
「……そうか」
高柳さんは納得して、あっさりと引き下がった。



