次に言われるであろう誘い文句を予想して、思いがけず心が躍った。
「よかったら……というか、美味しいものでも食べに行こうよ」
高柳さんの持ち合わせていない強引さに、心地良ささえ感じる。
私って、本当にダメな女だ。ううん、最低の女。
婚約者がいながら、ほかの男の人にときめくなんて。
それでも、高鳴る胸の鼓動を鎮まらせることができなくて、少し悩む素振りを見せながら小さく頷いてしまった。
その夜遅く入ったスマホの着信は、衣装合わせ以来の高柳さんからの連絡だった。
いつもなら軽いケンカの後でも、すぐにフォローの電話が入るのに、今回は一週間ぶり。私の言動が高柳さんのことを相当傷つけたことは確実だった。
「……もしもし」
躊躇いがちに応答をタップすると、電話の向こうで高柳さんの声が低く響いた。
その後、いやな沈黙が流れる。



